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トッド後の社会科事典

学問(近代)

識字化が進み、天上の王国(キリスト教)を信じることができなくなった心(集合的メンタリティ)が、観念の世界に築き上げた王国。

宗教(一神教)が(家族システムにおける)権威の代替物として機能していた文化圏(核家族の西欧・アメリカ)において、近代化(=世俗化)の開始から約300年間、唯一絶対の神に代わる(共有物としての)「正しさ」の供給母体となった。

人文・社会科学において彼らが生み出すイデオロギーが極めて理想主義的であり、また、自然科学が自然界(人間の身体を含む)の操作・改変に向かう強い傾向を有しているのは、学問が(天上の王国を司る)唯一絶対の神と同じ役目を担っているためと考えられる。

宗教と学問

西欧では、信仰心の高まりと識字化は一直線の過程だった。キリスト教は世俗の王による国家の樹立を助けた後、民衆の間に広まり、識字化の原動力となった。唯一絶対の神を希求する心は、識字化によって「客観的真実」探究の情熱に転じ、近代国家の建設・運営を支えた。

宗教と学問は実質的に一つのものであり、生き生きとした信仰こそが、彼らの批判精神、そして新たな理想(目標としての「正しさ」)を目指す情熱の源であったといえる。

神が消滅する過程で花開き、百花繚乱の様相を呈した学問は、脱宗教化の完成によって、理想を信じる力と批判精神(疑う力)を同時に喪失し、その生命を失ったのである。

以来、学問は、空虚な理想を語る言辞の裏で、欧米を中心とする西側世界の自己保存(おかねに支えられた覇権)に仕えるだけの存在となっている。

  • 西欧世界における学問(近代)は、一神教(キリスト教)に代わる権威の代替物
  • 唯一絶対の神の代わりに「客観的真実」をいただく観念の王国は、識字化し天上の王国を信じることができなくなった核家族によって築かれた
  • 学問は脱宗教化の過程で開花し、脱宗教化の完成によってその生命を失った

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