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トッド後の社会科事典

宗教(一神教)

(家族システムが未分化であるために)地上で国家を生成する能力を欠く原初的核家族が天上に作り上げた王国。

唯一絶対の神は、家族システム(=集合的メンタリティ)における権威の代替物として機能し、原初的核家族や絶対核家族が国家を生成・維持することを可能にした。

古典的な事例はユダヤ教であるが、時代が進むにつれ(→キリスト教→イスラム教)、原初的核家族を含む多様な集団を一つの秩序の下に統合する手段としての性格を色濃く持つようになった。

なお、エマニュエル・トッドは、人間社会における宗教の影響力を過大に評価していると筆者には見える。宗教を過大に評価してしまうのは、彼が西欧の歴史を基礎に世界を見ているからである。

西洋の衰退の根源には宗教的危機(信仰の衰退・消滅)があるとする彼の指摘は正当である。しかし、西洋において信仰の消滅(トッドは「宗教ゼロ」状態と呼ぶ)が致命的であったのは、国家の生成・維持に不可欠な権威の役割を一神教の神が代わりに務めていたからである。究極的な問題は、宗教ではなく、家族システムの次元にあるのだ。

核家族の西洋では、一神教の神は、地上のすべての規範(法、倫理)や共同性の源であった。しかし、一神教を擁する共同体家族や多神教を擁する直系家族の場合、地上の「正しさ」は家族システムに支えられており、宗教はそれを補強しているにすぎない。宗教的危機が国家的秩序を弱めることがあったとしても、崩壊(「国家ゼロ」状態)を導くとは考えにくい。

  • 一神教の神は、地上における権威の代替物
  • 原初的核家族が国家生成の必要のために発明し、後には共同体家族による帝国経営(核家族を含む多様な集団の統合)に役立てられた
  • 宗教的危機が「西洋の敗北」を招いたのは、西欧・アメリカ文化圏では、一神教の神が(家族システム=集合的メンタリティに欠けている)権威の代わりを務めていたため

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