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独自研究

連載「社会のしくみ」のご案内

 

姉妹サイトsatokotatsui.comの方で、連載「社会のしくみ」をはじめました。

トッドの人類学を頭に入れると、国家の誕生、国家の意思決定システム(政治ですね)、政治と宗教の関係、世界情勢‥など、さまざまなことが構造化して見えてきます。

自分としては、社会についての謎がどんどん解けていって面白くて仕方がなく、同じように社会に関心がある方たちにも、驚きと喜び、そしてさらなる探究のきっかけになるに違いないと思い、頭に溜まった仮説たちを共有させていただくことにしました。

もとより仮説にすぎませんし、かっちりまとめるのは読む方も書く方も大変なので、エッセイ的にゆるめに綴らせていただきます。

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この連載を「トッド入門講座」のサイトに載せるか、satokotatsui.comに載せるかは少し迷いました。すべての出発点がトッドの人類学にあることは間違いないので「独自研究」として当サイトに掲載するのがよいかとも思いましたが、私が立てる仮説の骨子には、(書かれたものを読む限り)トッドの考えと相容れない要素がいくつか含まれていると思われるので、ミスリードを避けるため、個人サイトにアップすることにしました。

トッドが自身の学説から導いた(世界の)解釈のほとんどを私は手放しで支持していますが、うっすらと疑問を感じていたことが2つありました。

①「脱宗教化」の意味づけ

トッドは、先進国の「危機」において、宗教というファクターをかなり重視しています。信仰の内容ではありませんが、「脱宗教化」すなわち「信仰が失われたこと」が根本にあるという見方です。

*なお、ここでいう「危機」とは、エリートたちがグローバリズムに踊らされ、自分たちの経済的特権を守るために若年層を犠牲にし、さらには(ヨーロッパではとくに)イスラムをスケープゴートに仕立てて社会の分断を煽り立てるような事態のことを指します。

「現在の混乱の起源には宗教的危機があるのだ。あたかも、1965年から2007年までの間に、宗教的信仰の最後の拠点が崩壊したことが、全国的な政治的解体を産み出すことになったかのようなのである。」

デモクラシー以後・52頁

この断定に至るフランスのデータ分析は行き届いたもので、私は、ヨーロッパの「危機」の根幹に宗教的空白を認めるトッドの立場にはいささかの異論も持ちません。

でも、日本ではどうか。

「日本のことはよく知らないから」と遠慮を見せつつ、トッドは明らかに宗教心の喪失は日本でも(ヨーロッパと同様に)何らかの破壊的影響をもたらしたはずだと考えたがっています(『シャルリとは誰か』の日本向けはしがきなど)。

しかし、彼のこの見立てに対しては、私は直感的に「違う」と感じます。日本人にも信仰心はあった(る)しそれが減弱していることは事実でしょうが、信仰の喪失そのものは、日本社会にはそれほど大きなダメージにはなっていないと感じるのです。

それは多分、ヨーロッパにおけるキリスト教の立ち位置と日本社会における宗教の立ち位置が少し違うからであり、そこには必ずや家族システムの相違が関係しているというのが、確信に近い私の直感です。

②「権威」の本質的重要性

もう一つは、社会における「権威」の機能です。

トッドは、われわれ人類は皆(とりわけ集団としては)家族システムの規定力から自由ではないことを明らかにし、ロシアや中国、中東の権威主義体制を敵視する英米仏の人々に対し、彼らのシステムを理解する必要があることを伝えます。

これは本当に(普及すれば)ノーベル平和賞級の偉大な功績で、だからこそ私はこうして普及のために微力を尽くしているわけですが、しかし、トッドが「権威」というものの存在意義というか客観的価値を正当に評価しているかというと、それはちょっと疑問であるとも感じます。

理由の一つとしては、トッドが政治哲学のような議論は好まず、ごく一般的なフランス市民の価値観を持つ「科学者」としてふるまっているということがあるでしょう。

科学者トッドはどのシステムがよいとかよくないとかいう立場にはなく、一市民として、自由主義体制を好むということを時折表明する。ただそれだけのことにすぎないのかもしれません。

しかし、この点についてのトッドの抑制的態度は、結果的に、核家族システムの徹底した相対化、つまり、ヨーロッパの特殊性の理解を妨げている面があるように思われます(①の私の疑問も多分この点と関係しています)。私のような社会科学者から見ると、非常にもったいないのです。

「ここにこそ、西欧近代が作り上げたモデルから逃れて、本当に世界史を書き換える鍵があるのに!」と。

そういうわけで、漠然と抱いていたこれらの疑問を掘り下げて、社会について考えてみたら「何かがわかった!」という気がしたもので、はじめるのが今回の連載です。

トッドの理論を受け止めた日本の社会科学者による社会の基礎論的考察(?)、

どうぞお楽しみ下さい。